呉鳳(ごほう、簡体字: 吴凤; 繁体字: 吳鳳; ピン音: Wúfèng)は、現在の嘉義県山間部で台湾原住民の一種族、ツォウ族との間の通事(通訳)を務めていたとされる漢族である。19世紀、呉鳳のおかげでツォウ族に殺されないようになったとして、阿里山近辺で漢族が呉鳳を祀る民間信仰が始まっており、またツォウ族の間にも呉鳳の祟りを恐れて漢族を殺さないようになったとの伝承が存在していた。しかし呉鳳はその生没年もはっきりしない、伝承の世界で伝えられてきた存在であり、歴史史料からはその実在を確認できない[1]

日本統治時代となって台湾総督府は呉鳳の伝承に注目し、その身を犠牲としてツォウ族の首狩りの悪習を止めさせたという自己犠牲を強調したストーリーを新たに加えた上で呉鳳の顕彰を行っていく。その中で呉鳳は台湾、そして日本本土や朝鮮の教科書の教材として取り上げられるようになり、呉鳳の存在は広く知られるようになった。戦後の国民党統治下の台湾でも呉鳳は教科書で教えられ続け、呉鳳の顕彰も盛んに行われてきた。しかし1980年代以降、教科書等で取り上げられてきた呉鳳像は虚構であると非難されるようになり、また台湾原住民からの激しい非難の対象となって呉鳳神話打破運動が起こり、そのような中で呉鳳は教科書教材から外され、呉鳳の顕彰もかつてより目立たないようになった[2]